先日、Singularity University(シンギュラリティ・ユニバーシティ)の講演を聞く機会がありました。
シンギュラリティ・ユニバーシティは、「2045年に人工知能が人間を上回る」と宣言した"The Singularity Is Near"の著者として有名なレイ・カーツワイル等により2008年に創設された教育機関で、シリコンバレーに拠点があります。
ユニバーシティという名称ですが、校舎や学位があるわけではありません。環境、食料、貧困、教育等の世界的な課題解決に挑む人材の育成や、世界的企業の幹部向けプログラム提供等の活動を通して、AIやロボット、バイオ、宇宙工学等の最新技術を活かしながら飛躍的に成長・発展するにはどうすれば良いのかという長期的視点を示してくれる組織です。
今回の講演は、こうした指数関数的な進歩を遂げている最新技術、"Exponential Technologies(エクスポネンシャル技術)"によって社会にどのような変化が起こるのか、というのがメインテーマでした。
講演の中で、Exponential Technologiesが特に変化をもたらしている代表例の一つとしてTeslaの"Model S"が挙げられました。この最新モデルの電気自動車は、従来のガソリン自動車に比べて、
- 圧倒的な加速性能 - 停止した状態からわずか2.4秒で時速 約100km/h(60マイル)に到達
- 電気で駆動するため、高速走行時でもほとんど揺れない(フロントにも荷物を搭載可能)
- 従来の自動車に比べて部品数が少なく、組み立てが簡単
- ガソリンを使わないため安全、ショッピング・モールにも出店できる
という特徴があります。
これらは、従来の技術では今後何十年もかかると言われていた(または実現不可能と思われていた)ものでした。しかし、視点をガソリンから電気に切り替えたことにより大きな変化がもたらされました。(年末に訪れたアラモアナ・ショッピングセンター内にも、ディズニーストアに並んでTeslaの販売店がありました。これも以前まで危なくて絶対に実現できないことでした。)
その他にも、Exponential Technologiesの主な事例として、
- 産業用ロボット "バクスター": 登場した10年前は数億円であったが、現在は約200万円(22,000ドル)になり、どの企業でもロボット導入が可能
- IBM "Watson": 2011年に全米クイズ王を破った人工知能が、現在はチップに収まるサイズになり、医療等の幅広い分野で活用
- Oculus等のVirtual Reality: 本物に近い体験を僅かな追加コストで実現できるため、医療向けに手術のトレーニングやDNA治療の研究等でも活用
などが示されていました。また、トランプ大統領がメキシコ国境への壁建設を署名した直後でしたので、テレプレゼンスロボットの"Double Robotics"を使えば実質的に国境も簡単に超えていける、という分かりやすい例にも言及していました。
こうした事例は、シンギュラリティ・ユニバーシティの運営する"Singularity Hub"でもさらに見ることができます。
Exponential Technologiesでは、従来のイノベーションと違い、業界や社会全体に革命的な変化をもたらし、これまでのルールや構造までも大きく変えていきます。
これらのExponential Technologiesがもたらす変化の大きさに躊躇をしてしまうこともありますが、こうした最新技術を積極的に取り入れていくことで、これまで不可能だと考えていたことも実現できる可能性が大きく広がっていきます。
自分の考え方や姿勢次第で、未来の選択肢が豊富になっていくことをあらためて気付かされた貴重な機会でした。
(補足)
本記事で取り上げた事例については、各社のページも参考になります。
・Teslaの"Model S"
・産業用ロボット "バクスター"
バクスター | ロボットと製造のあり方を再定義 | リシンク・ロボティクス
・IBM "Watson"
・Oculus Virtual Reality (Oculus Rift)
・テレプレゼンスロボット "Double Robotics"
Double Robotics - Telepresence Robot for Telecommuters