アメリカで働くコンサルタントの本棚

主にM&Aやグローバルビジネスに携わり、USCPAを取得。仕事や自己啓発で役に立つ本や情報等を紹介します。

AI・ドローンの密輸監視への活用

2017年3月28日付の日経新聞 夕刊に、財務省がAIやドローンを税関の不審物検査や港等での密輸監視に活用を始める、という記事が掲載されました。

www.nikkei.com

 

主な内容としては、次のようなものです。

  • 税関: 蓄積したX線写真の画像データ等をAIが読み込み、空港や港の税関審査で不審物を洗い出す
  • 港湾監視: カメラを装着したドローンを飛ばし、港周辺を巡回することで密輸監視を強化する
  • その結果、税関職員の人で不足を補い、税関の監視体制を強化する

 

現在、画像認識はAI活用が進んでいる分野ですので、税関での取り組みは一定の成果が見込めるでしょう。一方、人間と同等以上の精度を実現するには、データの蓄積が鍵になります。

危険物や違法薬物等の密輸を防ぐ、という水際対策の重要性を考慮すると、相当量のデータが蓄積され、精度が飛躍的に向上するまでAIでの自動化までには至らないのではないでしょうか。そのため今後数年間は、AIは税関職員を補助する役割に留まるように思います。

 

同様に、ドローンによる港湾監視についても、監視船を活用する手法に比べてコストや危険度の低減は期待できる一方で、リアルタイムで動画解析ができるようになるまでは人手による監視が引き続き必要と考えます(特に常時データを送るためのネットワーク帯域の確保が課題となるでしょう。)加えて、もし実際に密輸等の現場を発見した場合には、早急にその場で防ぐ抑止力も求められます。これは現在のドローンだけでは難しく、人手による監視体制も維持しておく必要があります。

 

現在、AI等の最新技術の活用が急速に広がっていますが、実際の適用にはまだまだ数多くの課題も存在します。そのため、短期的な導入効果に目を向けるだけではなく、一つ一つの課題を解決しながら、中長期的な視点で取り組みを継続することが益々重要になります。

USCPA コンピュータ試験(CBT)

USCPAは、現在、コンピュータの画面上に出題される問題を答えるコンピュータ形式の試験(CBT: Computer-Based Test)になっています。 

 

このコンピュータ形式の試験については、普段の学習環境とは異なるため、初めて受験される方などは受験の際に少し戸惑うこともあります(私もそうでした)。そのため、事前に試験の環境を理解しておくことも大事です。

 

コンピュータ試験の際に利用できるものは、大きく次のようになっています。それ以外は全て持ち込み禁止になります。電卓もモニター画面に表示されるものを使用します。

  • パソコン(Windows)・マウス
  • キーボード(US配列)
  • 小型ホワイトボード(両面書き込み可)・サインペン

 

この中で、特に注意したいのがキーボードです。日本で一般に使われているJIS配列ではなく、US配列になります。そのため、Written Communicationやシミュレーション問題でタイプミスをして、時間が無くなり焦ってしまうこともあります。

普段のパソコンをUSキーボードに変える必要までは無いと思いますが、日本のキーボードと違いがあることを理解し、本番でも焦らないようにしておくことが重要です。 

USキーボードと日本のキーボードの違い

 

できれば、以前にも記したAICPAから公表されているサンプルテストを試して、事前にコンピュータ試験の環境に慣れておくことをお勧めします。

http://www.aicpa.org/BecomeACPA/CPAExam/ForCandidates/TutorialandSampleTest/Pages/exam_tutorial_parallel.aspx 

 

また、テストセンターを運営しているPrometric社でも受験当日の手順を公開してます。当日の流れがよく分かりますので、こちらも参考になると思います。

受験手順<体験版>:日本語版

 

試験当日の環境や流れを理解して、ぜひ本番ではリラックスして普段通りの実力を発揮してください! 

4: 「不正会計」対応はこうする・こうなる

2015年の不正会計の発覚に端を発した東芝の経営危機は、二度の決算発表の延期という異例の事態を経て、いよいよ多額の損失が生じる主因となったウェスティングハウス社の破産法申請手続きに入る局面となりました。

 

「選択と集中」を掲げて半導体で国内首位、原子力で世界首位に躍進した時期には、現在のような苦境に陥ることを想像できた人は殆どいなかったのではないでしょうか。

 

今回紹介する書籍は、大規模な不正会計が生じる要因や生じやすい会社の特徴、不正を防ぐための仕組みや事後対応などを法律や会計基準等も交えて解説したものです。多角的かつ分かりやすく内容がまとめられており、非常に読みやすい本です。

「不正会計」対応はこうする・こうなる

 

その上で、本書の最大の特徴は、「不正会計の経営分析」や「循環取引」等を実際に不正会計が生じた企業の事例を基に詳しく解説している点にあります。

取り上げられた事例は、急成長したIT企業や大手インフラ企業の子会社など、発生当時はメディア等で扱われたものも多く含まれています。また、第10章の不正会計事例ではオリンパスや東芝なども取り上げられています。

(東芝は、ウェスティングハウス社の減損処理が生じる前でしたが、補足の中で既に減損に関して言及がなされています。)

 

本書で取り上げられた企業には、個人的に詳しく知っている事例も含まれていましたが、改めて客観的に見直す際にも参考になりました。その点からも分かりやすく、よくまとまっている本だと思います。 

USCPA 英文会計の急所 3: Goodwill

英文会計で特に気を付ける"急所"の第三回目は、Goodwillです。

 

概要

Goodwillは、日本語ではのれん、企業の買収や合併等の際に支払われる金額と対象企業の純資産の差額です。

この差額は企業のブランドや品質などから生じる超過収益力を表し、無形固定資産(Intangible asset)としてB/S上に計上されます。

 

なお、特許権や商標権、顧客基盤等の個別に測定できる無形資産については、Goodwillとは分けて計上されます(この手続きをPPA: Purchase Price Allocationと言います。)

 

気を付ける"急所"

Goodwillは、目に見えない企業の長期的な収益力を資産化したものです。そのためUS-GAAPやIFRSではGoodwillの定期償却をしない代わりに、その価値が毀損していないか、必ず毎年減損テスト(Impairment test)を行うことが求められます。

 

この点は、20年以内で規則的な償却を認めている現在の日本の会計基準とは大きく異なります。(なお、上述のPPAで識別された無形資産は、Goodwillとは異なり、それぞれの耐用年数等に応じて毎年償却されます。)

 

一方で、毎年償却を行わない分、減損テストでGoodwillに価値の毀損が認められた場合に生じる単年度の減損損失の影響額は大きくなる傾向があります。そのため、各企業のB/S上にGoodwillが幾ら計上されているかは注意しておく必要があります。

 

とりわけ、買収等を通じて成長してきた企業などは、資産規模に比べてGoodwillの金額が著しく大きい場合もあります。こうした企業でGoodwillの減損処理が生じると一気に財務体質が悪化し、債務超過に陥るケースもあります。

 

こうした影響を事前に見極めるために1) Goodwillの絶対額に加えて、2) Goodwillと純資産の比率(Goodwill / 純資産)を把握することも有効です。もしこの数値が100%を超えていると、Goodwillの価値が無くなれば債務超過に陥ることを示しますので早急な対策が必要です。

 

今回のまとめ

Goodwillの減損テストの実務では、中期計画等に基づく将来キャッシュフロー等の見積りに大きく依存するため、外部・内部環境の変化や立場による見解の相違などが生じやすいです。そのため、企業の予期せぬ結果が生じることも多くあります。(東芝の2016年度決算が一例です。なお、東芝はUS-GAAPを採用しています。)

 

一方、減損処理が生じた場合の影響額は相対的に大きく、企業の存続自体に関わることもあります。そのため、

  1. Goodwillの絶対額(関連するIntangible assetsを含む)
  2. Goodwillと純資産の比率

などを把握し、影響が大きい場合は資本強化を含めた対策案を事前に検討しておくことが肝要です。

USCPA 新試験制度の留意点(更新版)

いよいよ、USCPAの新試験制度が2017年4月1日から始まります。

新試験の開始に先立って、AICPAからも最終的な試験制度の概要について公表されています。

 

新試験制度の概要(PDF)

http://www.aicpa.org/BecomeACPA/CPAExam/DownloadableDocuments/next-cpa-exam-structure-white-paper.pdf

CPA Exam Candidate Bulletin(PDF)

https://media.nasba.org/files/2011/09/CandidateBulletin2017Final3102017.pdf

 

 

この中で、以前に記載した新試験制度の概要に加えて、さらに詳しい情報も公表されています。

1. 各科目のテストレット・問題数

今回公表された科目毎の選択式(MCQ)・シミュレーション(TBS)等の問題数は次のようになっています。シミュレーションのテストレット数が増えているのが特徴と言えます。

  • FAR: MCQ 66問(テストレット #1-2)、TBS 8問(#3-5)
  • AUD: MCQ 72問(テストレット #1-2)、TBS 8問(#3-5)
  • BEC: MCQ 62問(テストレット #1-2)、TBS 4問(#3-4)、Written Communication 3問(#5)
  • REG: MCQ 76問(テストレット #1-2)、TBS 8問(#3-5)

 

2. 休憩時間の追加

全体の試験時間が長くなったこと等に対応し、今回から時計が進まない休憩時間が追加されることになりました。 

従来の制度でも休憩を取れましたが、休憩中も画面上の時計は止まることはなく、試験時間は進んでいました。そのため、休憩時間を取らない、あるいは最小限にする受験生も多かったと思います。

今回から最初のTBSの後(テストレット #3)に時計が進まない休憩時間(標準: 15分)が追加されます。休憩中に教材等を見ることはできないと思われますが、厳しい試験の合間に一息入れて、次の問題に向けて気分転換を図ることもできます。

 

この他にも、4月以降の受験可能な日程及び結果の通知時期も公表されました。

FAQ: CPA Exam Score Release Timeline - AICPA

  • Q2 Testing Window: 4/1~5/31、結果の通知は8/16-18以降
  • Q3 Testing Window: 7/1~9/10、同 9/22以降
  • Q4 Testing Window: 10/1~12/10、同 12/22以降 

新制度の導入直後ということもあり、Q2(4-5月)は試験期間が若干短縮されており、結果通知もQ3(7-9月)の試験時期に一部重なっています。Q2-3で続けて受験される方はご注意ください。

USCPA 英文会計の急所 2: Inventory / Work in Progress

今回も、私がこれまでの経験を基に英文会計で特に気を付ける"急所"を記します。

第二回目は、InventoryWork in Progressです。

 

概要

Inventoryは、日本語では棚卸資産、製造・販売等のために保有している資産であり、いわゆる在庫です。

製造業のように仕入れた材料を元に自社で製品を加工する場合、Inventoryは

Material(原材料)→Work in Progress(仕掛品)→Finished goods(完成品)

と遷移していきます(USCPAでは、これらの製造原価の計算はBECで出題されます)。

 

いずれも流動資産ですが、Inventoryは実際に販売されるまでは資金回収が図れない点に注意する必要があります。 

 

気を付ける"急所"

前回のARと同様、Inventoryも売上の伸びに従って増加すれば特に問題ないのですが、一方で売上増が伴わずにInventoryが過大に計上されているケースもあります。この場合、本来は売上原価(Cost of Goods Sold: CoGS)として計上されるべき費用が減少するため、期間中の利益が実態より多くなってしまいます。

 

そのため過剰に計上されていないかのチェックが必要です。とりわけ、Work in Progress(WIP)は原材料や完成品と異なり、現物の確認が難しく企業による主観的(恣意的)な判断が入り込む余地も高いため、定期的な残高の確認が不可欠です。 

 

こうした兆候を簡易に把握する方法としては、先ず企業が抱えている在庫の水準を示す1) Inventory Turnover ratio (在庫回転率)が役立ちます。

Inventory Turnoverは、

  • Inventory Turnover = Cost of Goods Sold / Average Inventory

により求められます。この数値は業種や企業によって異なりますので、絶対値からInventoryの多寡を判断することはできませんが、定常的に算出することで、Inventoryの水準(回転数)が突発的または徐々に悪化していないかという傾向を掴むことが可能となります。

 

加えて、前回のARと併せて、2) Weekly / Monthly Cash Flowを管理することも非常に役立ちます。

特にInventoryやWIPで継続的にCash-outが生じているにも関わらず、これらの資金回収Cash-inが遅れている場合には要注意です。先ず製品/顧客別に個々の残高を確認するとともに、当初の生産・販売計画に遅れが生じて無いか等を個別に確認することが大事です。

 

今回のまとめ

Inventory、WIPともに、売上の順調な伸びや機会損失の回避などに伴う増加ならば良いのですが、製品の陳腐化や回収の目途が立たない等の場合には将来の損失に繋がるため慎重に管理する必要があります。

また、特に長期化しているものは、実際には既に回収の目途が立たなくなっているにも関わらずInventory・WIPだけが計上され続けている、という事象もあり得ます。これらは当期に発生した費用の先送りに過ぎません。(私が過去に見た海外企業でも、明確な証跡も無くWIPの計上が続き、その残高が深刻な影響を及ぼす規模になって初めて、既に回収の見込みが無いと判明するようなケースもありました。)

 

このような事態を避けるためにも、

  1. Inventory Turnover ratio
  2. Weekly / Monthly Cash Flow

などを活用して、定期的な確認を通じて早期に適切な対処を取っていくことが重要です。