アメリカで働くコンサルタントの本棚

主にM&Aやグローバルビジネスに携わり、USCPAを取得。仕事や自己啓発で役に立つ本や情報等を紹介します。

USCPA コンピューター試験のアップグレード

AICPAから、2018年4月1日よりUSCPAのコンピューター試験のソフトウェアがアップグレードされることが発表されました。

www.aicpa.org

 

併せて、AICPAのサイトでサンプルテストも公表しており、本番の試験前に新しいソフトウェアの操作性を試すことができます。 

Tutorial and Sample Tests

 

実際に私も試してみたところ、主な変更としては、

  • 画面が大きくなり、文字も見やすい
  • Calculator等の反応速度が早い
  • Overviewボタンにより、Testlet内の問題が一覧できる
  • Excelが使用できる
  • コピー(カット) & ペーストが使用できる (Ctrl+C(X)/Vのショートカットキーも使用可)

という点などがありました。

 

特にExcelやショートカットキーを利用したコピー&ペーストは、多くの方が慣れているものであり、より実務に近い環境で試験が受けられるようになったといえるでしょう。

 

これから試験を受けられる方は、ぜひ一度、サンプルテストを試してみることをお勧めします。

Amazon、GEの決算発表

現在、アメリカ企業の第4四半期の業績発表が活発化しています。その中で、対照的な2つの企業に注目したいと思います。

 

Amazon

Amazon が2/1に発表した2017年10-12月期決算は、売上高が38%増の604億ドル、最終利益が248%増の18億ドルとともに過去最高となりました。

主な要因は、北米の年末商戦で主力のネット通販が好調だったことです。主力のAIスピーカーのアマゾン・エコー(Amazon Echo)も「予想を遥かに上回る」売れ行きでした。

また、注目すべきは クラウドサービスであるアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が伸びていることです。過去1年間の売上高は174.5億ドル となり、日本の情報サービス業でトップであるNTTデータの売上高に並ぶ規模にまで成長しました。特に、AWSは売上成長率が43%と大きく伸びており、営業利益率も25%と高水準です。

利益率の高い事業の伸びがアマゾンの成長を牽引しているといえます。

 

General Electronic (GE)

もう一つは、アメリカを代表する伝統的な大企業のGEです。

こちらも同じく10-12月期決算を発表しましたが 、売上は5%減の314億ドル、最終損失は98億ドル(約1兆円)の大幅な赤字となりました。

主な要因は、過去の保険事業の評価額を大幅な見直し(▲95億ドル、税効果前)を行ったことにありますが、加えて事業の見直しや要員整理などに伴うリストラ費用も大きな足枷となっています。

事業別に見ると、主力の電力事業で売上高が昨年より15%も落ち込み、セグメント利益率も2.8%と他の主力事業に比べて大きく劣っています。Amazonと対照的に、主力事業の不振がGEの業績全体の足を引っ張っていると言えるでしょう。 

GEにとっての朗報は、注力しているIoTプラットフォームの"Predix"関連の受注が41%増と引き続き伸びていることです。GEの主力事業でのマーケットシェアは依然として大きいため、デジタルビジネスへの転換が進めば、今後の業績回復が期待できそうです。

 

主力/成長事業への対応一つで、全体の業績に大きく影響するということが分かる今回の2社の決算でした。私たちも、他山の石として気を付けなければいけません。

 

富士ゼロックス不適切会計 - リース取引の問題点

先日、富士フィルムHDの第三者委員会による調査報告書が公表されました。 

富士ゼロックスの海外販売子会社の会計処理に関する調査報告書

http://www.fujifilmholdings.com/ja/investors/pdf/other/ff_irnews_20170612_003j.pdf

 

富士ゼロックスのニュージーランド・オーストラリア子会社が行っていた不適切な会計処理の結果、最終的に累計 375億円(2011.3-2016.3月期)の決算修正を余儀なくされるという影響が大きい事案でした。この不適切会計の中心になっていたのが、リース取引でした。

 

今回は、このリース取引の問題点について詳しく見てみたいと思います。 

リース取引の分類

リース取引は、一般に貸手が建物、設備等を一定期間に亘り使用する権利を与え、借手は使用料を支払う取引をいいます。米国会計基準では、リース取引は

  • Capital Lease(キャピタルリース)
  • Operating Lease  (オペレーティングリース)

の2つに分類されます。本件では、富士ゼロックスの海外子会社はオフィス機器等を顧客に提供する際にキャピタルリースとして会計処理を行っていました。

  

キャピタルリース取引の条件

米国会計基準では、キャピタルリースに分類されるためには次の4つのいずれかの条件を満たす必要があります。 これらはUSCPA受験に際しても必ず学習します。 

  1. Transfer of Ownership: リース期間終了時、所有権が借手に移転する
  2. Bargain Purchase Option: 割安購入オプションを借手が保有している
  3. 75% of remaining life: リース期間がリース資産の耐用年数の75%以上を占める
  4. 90% of FMV:  最低支払リース料総額の現在価値が、リース資産の公正価値(FMV)の90%を超える

 

加えて、以下の条件を満たしている場合にキャピタルリースに分類されます。

  • a) 最低支払いリース料総額の回収が合理的に予想できる
  • b) 借手から回収できない追加コストが発生する不確実性がない    

 

今回のリース契約では、主に3) リース期間及び4) 最低支払リース料総額の現在価値、及びa), b)の2つを満たしているかが重要な判断ポイントでした。   

 

今回のリース取引の問題点 

本件で、富士ゼロックスの海外子会社はキャピタルリース(うち販売タイプリース)を適用していましたが、これはリース取引開始時に最低支払リース料総額の現在価値が一括で売上に計上される、という特徴があります。

一方、オペレーティング・リースは取引開始時に会計処理は発生せず、実際に顧客からリース料の支払いを受けた時に売上が発生します。

 

したがって、キャピタルリースの場合、顧客からリース料を受け取る前に多額の売上が計上されるため、上述の条件を満たしているか(確実にお金を回収できるか)、という点が非常に重要になってきます。

 

本件のリース取引では、契約書に契約期間、料金設定、契約解除時の扱いが規定されていました(所有権、割安購入オプションは含まないため、条件1, 2は該当しない)。 

ここで、実際の料金がどのように決まるがポイントでしたが、 

  • 毎月の料金=実際の使用量 × レート(目標数量を基に設定された単価)  

となっており、顧客には毎月、一定の料金を支払う義務(ミニマムペイメント)は課されていませんでした。したがって、条件3も該当しないことになります。

 

それでは、最後に条件4の"リース期間"を満たすか、という点ですが、ここに落とし穴がありました。

標準契約書上は、中途解約時には"目標数量(ターゲットボリューム)を基に計算した残りの契約期間分の残高=ペナルティを支払う"ことが規定されており、かつ

  • Sole Supplier条項: 顧客が競合他社のプリンタを導入したら契約違反となる
  • Rightsizing条項: 目標数量に達しなかった場合、富士ゼロックスは機器の撤去・変更、または単価変更を行うことができる   

という富士ゼロックスにとって優位と思われる条項が含まれていました。したがって、これらの契約条件を前提に、富士ゼロックスでは「キャピタルリースに該当する」と判断して会計処理を行っていました。 

 

しかしながら、実際の顧客との取引を調査したところ、

  • 新たな売上獲得を目的に、リース契約期間の満了前に更新が頻繁に行われており、契約上の期間と実際のリース期間は一致していなかった
  • 契約更新または解除時にも、顧客に対して実際にペナルティを請求したケースは殆ど無い
  • Sole Supplier、Rightsizing条項は顧客との合意が必要であり、富士ゼロックスに無条件に権利が認められているものではない(顧客が認識していない)

などの実態が明らかになりました。

加えて、当初の売上計上時に使用していた目標数量(ターゲットボリューム)について、海外子会社の経営陣は「新規顧客の場合は経験豊富なアナリストが評価・決定し、既存顧客は実際の使用量に基づき設定している」と説明していたものの、実際には多くの契約で目標数量を下回っていました。

 

こうした点から、本件では海外子会社の経営陣がリース取引を悪用して、意図的に売上を過大計上したと見て、本格的な調査・対応に至ったものです。

 

 

最後に、本件は海外子会社の不適切な会計処理に伴う多額の決算修正にとどまらず、富士フィルムHDを含めたガバナンス体制の刷新等も行われました。

背景には、海外子会社の経営に関する権限・ガバナンスを集中させ過ぎたこと、売上の比重が高い報酬体系、富士ゼロックス役員による隠蔽体質等の大きな問題もあります。これらに関しては、別の機会に記したいと思います。

 

(補足)

今回の調査報告書は、企業が公表した資料の中でも大変詳しく書かれています。また調査・関係者へのインタビューに加えて、ITを活用するデジタル・フォレンジックも実施しており、大変参考になります。ご興味のある方はぜひ一読されることをお勧めします。

 

ソフトバンク、Boston Dynamics・Shaft買収

先日、ソフトバンクがGoogle傘下のBoston Dynamicsの買収を発表しました。更に本取引の一環として、日本企業のSchaftを買収することにも合意しています。

www.softbank.jp

 

Boston Dynamics、Shaftともに歩行型ロボットを開発する企業として非常に有名です。四足歩行型ロボットの"Big Dog"を始め、Boston Dynamicsのロボットはテレビでも取り上げられているため、目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

Boston Dynamics | Boston Dynamics

www.youtube.com

また、Shaftも"東大発のロボットベンチャーがGoogleに買われた"と、買収当時(2013年)は話題になりました。

 

今回の2社買収の合意は、ソフトバンク・Googleの思惑が一致した結果だといえます。

Googleにとっては、ロボットの事業化を進めていた副社長のアンディ・ルービン氏が退社してからは、ハードウェアのロボット開発からは遠ざかっていました(同社のフォーカスは、AIや車の自動運転等に既に移っています)。

 

一方で、ソフトバンクは有名なPepperをはじめ、ロボット事業に本格的に乗り出しています。以前に当ブログの記事でも紹介したように、Pepperの課題の一つは自由に動き回ることができる"自立移動"を実現することであり、今回の2社買収はその課題解決に貢献することでしょう。

www.thebookshelf.biz

ただし、ソフトバンクの狙いは"歩くPepper"の実現だけに留まらないでしょう。

Boston Dynamics等の歩行技術は、軍事目的の過酷な条件でも耐えられる程、高度なものです。現在の可愛らしいPepperは主に商業施設やコミュニケーション用途で活躍していますが、その用途向けには補って余りあるものです。

そのため、ソフトバンクとしてはPepperや今回のロボット開発2社に加えて、今後もロボット技術を持つ企業の買収を進めて、商業から産業、政府等の幅広い業務に活用できるロボットを自社グループ傘下に揃えることだと考えます。

 

今後も、ソフトバンクのロボット事業の展開に注視していきたいと思います。

 

USCPA 試験結果の通知時期 (2017.7-12:更新版)

USCPAの新試験制度が2017年4月から始まりました。

 

最初の試験期間である4-5月(Q2 Window)については先日終了したところですが、そちらの試験結果の通知時期及び今後の受験可能な日程が公表されています。

FAQ: CPA Exam Score Release Timeline - AICPA

  • Q2 Testing Window: 4/1~5/31(終了)、FAR, AUD, REGの結果通知は8/17まで、BECは8/22まで
  • Q3 Testing Window: 7/1~9/10、結果通知は9/22まで
  • Q4 Testing Window: 10/1~12/10、結果通知は12/22まで

 

Q2の試験結果のうち、Written Communicationが含まれるBECは、従来の発表に比べて約1週間程延びて8/22以降に変更されました。またQ2の結果通知は、Q3(7-9月)の試験時期に一部重なっています

あらためて、Q2-3で続けて受験される方はご注意ください。

AI半導体への取り組み

先日、「アップルが人工知能を組み込んだ半導体チップを開発中」と報じられました。

顔認識、音声認識を処理するもので、開発中のiPhoneで試験中ということです。

www.nikkan.co.jp

 

AI向けの半導体では、既にGoogleは昨年、自社用のAIチップ"TPU(Tensor Processing Unit)"を公表し、従来のCPU/GPUを上回る計算性能・省電力性能を発揮しています。また、その成果は囲碁ソフト "Alpha Go(アルファ碁)"の開発やGoogle翻訳の改善にも現れています。

 

これまでソフトウェア/サービスを提供してきたGoogleやApple等が揃ってAI半導体の開発に取り組む背景としては、より高度なAIを開発・利用するために、それを動かすハードウェアにもより高い能力が求められている、という点が挙げられます。

 

従来のCPUは汎用的な計算処理に適している反面、現在のAIの主流である機械学習のような膨大な類似データの読み込み・分析等では処理性能は上がらず、電力消費量も増えます。そのため、各社はAI活用を優位に進めるためにも、自社に適したAI半導体の開発に乗り出しているところです。

 

現状では、この流れに追随する日本の企業は現れていません(むしろ、東芝メモリの売却という逆方向の動きの方が目立ってしまっています)。Google、Apple、Amazonのようにソフトウェア/サービスを世界的に展開している日本の企業が少ないことを考えると致し方の無いことかもしれませんが、今後はこうしたAI活用に向けて集中的に取り組む企業との差はますます広がってしまうでしょう。

 

半導体の開発・製造自体は水平分業が進んでいるため、新たに自社で取り組むにはハードルが高いですが、半導体メーカーと一早く協業し、今後自社のAIに適した半導体等を提供してもらうことで日本の企業もAI分野で優位に立つことはできると思います。