アメリカで働くコンサルタントの本棚

主にM&Aやグローバルビジネスに携わり、USCPAを取得。仕事や自己啓発で役に立つ本や情報等を紹介します。

企業戦略を読み解く1: Tesla

今回から、主に海外企業を中心に業績やニュース等から各企業の戦略を読み解きます。

 

第一回目は、Teslaです。

 

概要

Teslaは、米国シリコンバレーに本拠を置き、電気自動車の設計から製造・販売までを手掛ける会社です。同社の最新モデルの電気自動車は、画期的な性能・機能を誇り常に注目を集めています。また、前回紹介したように再生可能エネルギーを用いた発電事業も展開しています。

 

TeslaはNASDAQに上場しており、投資家向けにも情報を公開しています。

ir.tesla.com

 

 

直近の動向

Teslaの最新鋭の電気自動車 Model S P100Dは、60m/h(時速約100km)に至るまでわずか2秒28という史上最速の加速性能(フェラーリよりも速い)に加えて、タッチスクリーンでの操作、自動運転対応などの高い機能を誇ります。

そのため、同社は特に高級車の分野で急速に勢いを伸ばしており、BMW、ベンツなど他社の販売が伸び悩む中、Teslaは下図のように過去4年間で年間販売台数を約4倍(2013年 2.2万台→2016年 8万台)にしています。

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また、先日も米国最大手の自動車メーカーGMを一時、時価総額で上回るなどTeslaに対する市場の評価は極めて高く、この高い成長への期待を活かして、最近も中国テンセントから約17億8千万ドルの出資を得るなど、積極的な資金調達も行っています。

 

注目の指標

Teslaの注目すべき指標は、まず売上高・純損益(Revenue, Net Income/Loss)です。販売台数の順調な伸びに比例して、売上も過去数年間で大きく拡大しており、2016年売上は7,000百万ドル(約7,700億円)です。この急成長が同社に対する高い期待につながっています。

 

一方で、最終損益は純損失を続けており、四半期単位で見ても純利益となることは殆どありません(最近では2016年3Qに一度黒字になりましたが、それ以外は最終赤字を続けています)。 

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最終赤字が続く最大の原因となっているのが、 多額の研究開発費(R&D)、生産・販売台数の拡大を支える販売・管理費(SG&A)の増加です。下図に示すようにR&D、SG&Aは年々増加しており、対売上でも26-41%を占めるなど非常に高い水準となっています。

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R&Dについては、 Teslaが最先端の電気自動車を開発し続け、最高級車としてのブランドイメージを保つためにも不可欠です。また、最近では高級車のModel S, Xに加えて、一般向けのModel 3の量産に乗り出しており、このために多額の費用を要しています。

またSG&Aも、急速な販売の伸びに伴い、販売店やサービスセンター、充電スタンドを拡充するなど、電気自動車の普及に向けて必要なものばかりです。

 

したがって、Teslaにとっては、こうした固定的な費用を十分に上回るだけの売上をいつから計上できるようになるかが最重要課題であると言えます。現在開発中である量産型のModel 3がまさに試金石となるでしょう。 

 

まとめ

画期的な性能と高いブランドイメージを誇るTeslaの電気自動車ですが、生産・販売には多額の投資を要しており、まだ黒字転換には至らない状況です。

一方で、ライバルであるBMW、VWなど伝統的な自動車メーカー、トヨタ、日産などの日本車メーカー、更にはGoogle、Uberなども大規模な資金力・技術力を活かして電気自動車・自動運転等の分野で着々を開発を進めています。

 

Teslaは先月駐車ブレーキの不具合でリコールを発表しましたが、こうした技術的な課題を解決し、強力な他社に先駆けていかに早く高機能の電気自動車を量産し、市場に広めるかが今後の鍵となるでしょう

 

Tesla CEOのイーロン・マスク氏は2006年に「マスタープラン」を発表しており、これまではプラン通りに進んでいます(10年前から現在の姿を描いているのは驚きです)。

  • スポーツカーを作る
  • その売上で手頃な価格のクルマを作る
  • さらにその売上でもっと手頃な価格のクルマを作る
  • 上記を進めながら、ゼロエミッションの発電オプションを提供する

 

昨年には新たな「マスタープラン パート2」を発表し、次の目標を掲げました。

  • バッテリー ストレージとシームレスに統合された素晴らしいソーラールーフを作ります
  • すべての主要セグメントをカバーできるようEVの製品ラインナップを拡大します
  • 世界中のテスラ車の実走行から学び、人が運転するよりも10倍安全な自動運転機能を開発します
  • クルマを使っていない間、そのクルマでオーナーが収入を得られるようにします

www.tesla.com

 

電気自動車の普及を通じて持続可能な輸送手段/社会の実現を目指している、Teslaに今後も注目したいと思います。

Tesla Energy/テスラの発電事業

今週、電気自動車のTeslaが一時、General Motors(GM)を抜いて時価総額で全米首位の自動車メーカーになったと話題になりました。

www.bloomberg.co.jp

 

GMの2016年販売台数は世界3位の約957万台、これに対してTeslaの販売台数は約7万台と比較にならない程大きな差がありますが、それだけ市場がTeslaの成長性を有望視していることの現れだと言えます。

 

そのTeslaが発電事業にも進出していることをご存知でしょうか?

2016年11月に太陽光発電事業を手掛けるSolarCityを買収し、太陽光発電パネル、家庭用蓄電池などの販売を開始しました。

www.tesla.com

 

同社の日本のWebサイトでも、電気自動車に並んで"Powerwall"という家庭用蓄電池があります(米国のサイトでは"Energy"という項目になっており、より幅広いラインナップが提供されています)。

www.tesla.com

 

価格と性能については色々と専門家の見方があるようですが、単純な本体価格で比べた場合には14kWh 696,000円(2017.4時点)と格段に安いようです。

 

何よりも、電気自動車で培った自社のバッテリー製造、太陽光発電等の再生可能エネルギーの技術・ノウハウ(Teslaは"ギガファクトリー"という巨大工場を持つ)を活かして、他の分野に展開する発想力には驚きです。Amazonが自社のECサイトをベースに、クラウドコンピューティングサービス(AWS)で急速に成長しているのと同じ感覚を得ます。

 

Teslaの最近のニュースリリースを見ると、Tesla "Motors"ではなく、Teslaと称していることが多いようです(正式名称もTesla, Inc.であり、自動車会社ではありません)。今後、自社のコア技術・ノウハウを活かせる分野への更なる展開を考えているのかもしれません。

 

今後も急成長するTeslaに注目していきたいと思います。

GEのデジタル工場

以前にGEのインダストリアル・インターネットに向けた取り組みを紹介しましたが、今週(2017.04.10号)の日経ビジネスでは、GEのデジタル工場を特集しています。この特集は、実際の工場内の様子を写真付きで載せているため、大変分かりやすいです。

business.nikkeibp.co.jp

 

"ブリリアント・ファクトリー"、"スマート工場"とも呼ばれる取り組みは、工場内のあらゆる設備/機器をつなぐ、さらには工場自体をネットワーク(GEの場合はIoTプラットフォームの"Predix")につないで、製造業の生産性を飛躍的に高めようというものです。

 

今回の特集でも、米国(グローブシティ)、日本(日野)にあるそれぞれの工場で、RFIDやセンサーを使って各工程の作業状況を測り、それをリアルタイムでデータを共有・管理し、カイゼン活動につなげている様子が分かります。

 

今回取り上げられている取り組みの特徴としては、  

  • IoTを用いて工場内のあらゆる作業をデータとして収集する(デジタル化
  • 集めたデータをリアルタイムで共有・分析できる(見える化

という点が挙げられます。これにより、従来は人手による計測等で時間を要していたもの(あるいは計測ができなかったもの)もすぐに把握できるようになり、ミスを事前に防いだり、ムダな作業を減らすカイゼン活動をより短いサイクルで実現できるようになります。

 

加えて、今回の特集では取り上げられていませんが、今後は蓄積したデータを活用することで、作業自体をヒトからロボットで実現する動き(自働化)も更に加速していくと思います。

 

最終的には工場内にとどまらず、製品の受発注や生産管理システム自体とつないでいくことで製品のサイクル全体での最適化を図っていくことが可能になります。工場のデジタル化は、その実現に向けた取り組みの一つといえます。

 

(補足)

GEの提唱する"ブリリアント・ファクトリー"構想は、こちらでも詳しく載っています。

「IT経営」の次は「OT経営」 キーワードはデジタルスレッド - GE Reports Japan

 

 

IoT100+1(日経コンピュータ 3月30日号)

今月号(2017年3月30月号)の日経コンピュータで「IoT100+1」という特集を組んでいます。1月に特集された「人工知能 100」の続きにあたるものですが、今回も豊富な事例が紹介されており、なかなか良くまとまっています。

 

大きくはIoTの活用事例、最新テクノロジー、 市場動向、セキュリティ対策、将来に向けた取り組みの5つに分かれています。

このうちIoTの特徴であるネットワークでつないで大量のデータを蓄積すること、かつ蓄積したデータを活用して社会的に大きなインパクトが期待できる事例や取り組みを幾つかピックアップしてみました。

  • 日揮: NECと共同で化学プラントの異常予知検知サービスを提供開始。プラントに取り付けたセンサーが圧力・温度等を収集、AIで分析した結果、2-3日前に異常予兆を検知
  • ボッシュ: 工場IoTで生産状況の見える化や故障予知を実施、自社の生産ラインに適用した結果、生産量を8%向上(日本企業向けにもサービス提供を開始)
  • NTT・東レ: 共同開発した機能素材"hitoe"により切るだけで心拍数・心電波形を計測。医療機器としても認可されて、入院患者のリハビリへの活用の実証実験も開始
  • ドコモ・東京無線: タクシー約4400台をネットワーク化し、車載器から乗降時刻・位置等のデータを収集・蓄積、ドコモのデータと組合せて30分後までのタクシー需要を予測
  • 東京電力・GE: GEのIoTプラットフォーム"Predix"を活用し、火力発電所の設備から温度・圧力・振動等を収集、Predix上のアプリで分析し稼働率向上・運用コストの削減を図る
  • 長野県: ワイン用ブドウ栽培の農地にセンサー端末を設置し、気温・降水量・湿度・日射量等のデータを収集、品質向上や病害の防除などに活用していく

などになります。

また、将来の取り組みとしては、Amazonが"Amazon Dash Button"を更に活用し、ボタン一つでタクシー配車、ピザの配達などを自由に利用できるように目指していることも紹介されています。

 

いずれの事例も、センサー・ネットワークを活用してより多くのデータを収集し、データ分析を通じて将来予測や作業効率化、コストの低減化などを図るものです。

また、以前に紹介したGE等の大手メーカーや通信会社などがプラットフォームを提供している事例が多く含まれているのも特徴的です。既に多くの企業や利用者のプロセスに組み込まれているという点で、これらのプラットフォームには強みがあります

 

今後は、大規模プラットフォームによるデータ収集と、AI等を活用したデータ分析の組み合わせから更に成果を挙げていく企業が主流となっていくでしょう

KPMGコンサル、RPA活用支援の組織発足

先日、KPMGコンサルティングが企業のRobotics Process Automation (RPA)活用を支援するための専門組織を立ち上げ、4月から業務を開始することを発表しました。

3年後の2019年度に200名体制・100社からの受注を目指すようです。

 

KPMG 2017/3/28 ニュースリリース

RPAを活用した業務改革を支援する専門組織を設置

https://home.kpmg.com/jp/ja/home/media/press-releases/2017/03/rpa0328.html

 

KPMGは、RPAに関して従来から積極的に情報発信を行い、関連企業とも連携しながら取り組みを進めていました。2017年に入ってからRPAへの認識も急速に広まり、導入する企業も増える中で専門組織を立ち上げたのでしょう。RPA活用はまだまだ広がっているため、KPMGに限らず、今後も後に続く企業が現れるはずです。

 

一方で海外に目を向けると、欧米の大手金融機関、ヘルスケア等の企業で既にRPAは活用されています。その多くはまだ定型業務の自動化(今回のKPMGニュースリリースの"Class 1"に該当)及びコスト低減に留まっていますが、今後はAIとの組み合わせによって"Class 2-3"相当のより高度な活用が大いに期待されます。

 

日本においても、その段階までには、今回KPMGが掲げた目標よりも早く至り、そしてより多くのユーザー企業が通常業務の一環としてRPAを導入しているでしょう。早期に取り組みを始めて、業務の効率化/自動化に向けた実績やノウハウを自社に蓄積していくことが今求められています。 

AI・ドローンの密輸監視への活用

2017年3月28日付の日経新聞 夕刊に、財務省がAIやドローンを税関の不審物検査や港等での密輸監視に活用を始める、という記事が掲載されました。

www.nikkei.com

 

主な内容としては、次のようなものです。

  • 税関: 蓄積したX線写真の画像データ等をAIが読み込み、空港や港の税関審査で不審物を洗い出す
  • 港湾監視: カメラを装着したドローンを飛ばし、港周辺を巡回することで密輸監視を強化する
  • その結果、税関職員の人で不足を補い、税関の監視体制を強化する

 

現在、画像認識はAI活用が進んでいる分野ですので、税関での取り組みは一定の成果が見込めるでしょう。一方、人間と同等以上の精度を実現するには、データの蓄積が鍵になります。

危険物や違法薬物等の密輸を防ぐ、という水際対策の重要性を考慮すると、相当量のデータが蓄積され、精度が飛躍的に向上するまでAIでの自動化までには至らないのではないでしょうか。そのため今後数年間は、AIは税関職員を補助する役割に留まるように思います。

 

同様に、ドローンによる港湾監視についても、監視船を活用する手法に比べてコストや危険度の低減は期待できる一方で、リアルタイムで動画解析ができるようになるまでは人手による監視が引き続き必要と考えます(特に常時データを送るためのネットワーク帯域の確保が課題となるでしょう。)加えて、もし実際に密輸等の現場を発見した場合には、早急にその場で防ぐ抑止力も求められます。これは現在のドローンだけでは難しく、人手による監視体制も維持しておく必要があります。

 

現在、AI等の最新技術の活用が急速に広がっていますが、実際の適用にはまだまだ数多くの課題も存在します。そのため、短期的な導入効果に目を向けるだけではなく、一つ一つの課題を解決しながら、中長期的な視点で取り組みを継続することが益々重要になります。